鳥取県西部の習俗と石造物
鳥取県西部には、西日本に限って言えば意味がわからないほどに突出して多くの双体道祖神があります。
このシリーズは、道祖神に限らず祠や才ノ木、はたまた立石から自然石まで、いわゆる塞ノ神、妻ノ神、幸ノ神などと呼ばれる民間信仰の依り代をとにかく楽に、そして迷うことなく巡礼するため、googleマップとゴリゴリに連動して位置情報やその他の情報をまとめたものです。
これから探索なさる方、また巡礼中の方にも、サイドツールとしてお役に立ちましたら幸いです。
まずは地図ドン!
今のところ調査範囲は米子市内にとどまっていますが、そのうち範囲を広げて鳥取県西部全域をカバーしたいとは考えています。
参考資料として、
塞神考/森納(1991)
石に刻まれた祈り2/山陰歴史館(2018)
淀江町誌/淀江町誌編纂委員会(1985)
淀江みちくさ手帖/白鳳の里(2014)
鳥取県神社誌/鳥取県神職会(1935)
などを使わせていただき、稀に地元の方からの聞き取りや自力での発見も含まれる詳細を、個々のページにて解説する流れとなります。
今回の調査対象は、村や峠の境界を守ったり子供の成長を見守ったり、結婚の世話をしたり足や耳の病気平癒を願ったりと、とにかくいろいろな願いがごった煮になったような民間信仰です。
なので、妻ノ神や塞ノ神みたいに表意的な漢字を当てちゃうと、これだけ混淆が進んでしまった今となっては呼び名として適当じゃないような気がします。
あと、全国的には道祖神の方が通りが良いんだけど、このへんではあんまし道祖神って言わないので、以下大雑把にサイノカミっていうふうに総称します。
OK?
注.行事の有無などについては最新訪問日を基準にメモしています。
現状とは異なる可能性がありますので悪しからず。
もくじ.
特集.賽の河原 ▽
地域別一覧 似ている図案を探してみよう
猫背型 ▽
烏帽子型 ▽
おだんごタイプ ▽
猿田彦タイプ ▽
杖タイプ ▽
淀江タイプ ▽
岡成タイプ ▽
墓下タイプ ▽
特集.賽の河原
霊峰大山の登山口近く。
大山で最古の近代砂防と言われる金門狭堰堤があります。
また、その付近は賽の河原といわれる古くからの霊場であり、今でも多くの積み石が見られます。
そんな金門狭を見てきました。
写真多め。
米子市日野川西
日野川を境として西側の米子市は、双体道祖神が比較的少ないという印象がありますが、広義でのサイノカミはそれなりにあります。
特に米子レイラインや宗像土手など、水害の歴史と強く関係するような痕跡が、塞神をはじめとした霊的な対策とセットになっている事があると感じました。
それでは以下、日野川西岸のサイノカミをどうぞ。
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米子市日野川東
サイノカミの分布を捉えるうえで、米子市という行政単位を、日野川でわざわざ線引きする必要があるのか?
わずかに迷った時期もありましたが、たぶん意味はあります。
不思議なのは、川の位置が何度も変わるほどの災害を経て来た日野川東岸で、サイノカミの分布がそれに関連しているように見えない点です。
文字通り天変地異だった筈なのですが。
何にせよ、大山が近いからなのかどうか、双体道祖神が沢山ありますのでその辺はご期待ください。
個人的には上福万の積み石がとても印象深く感じました。
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米子市淀江町
平成17年に米子市と合併した淀江町。
ここも日野川を境とした米子市東側ではないのか?
というツッコミはひとまず置いておいて、淀江町としてまとめさせていただきました。
ボリューム的な事情に加えて、何より淀江町の石造物文化が実に特徴的であることが大きな理由です。
試しに添付のサイノカミマップを見てみてください。
どこかの碁打ちが神の視点で石でも置いたかのように見えませんか?
私は淀江町をして、わりと真面目に結界都市と呼んでいたりします。
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コラム.似ている図案をまとめてみよう
ある程度調査が進んでくると、今度は横のつながりが見えて来ます。
サイズだけでなく製作年代、彫込みの形状や所持品に至るまで、これまで実に様々な角度から統計や分析が試みられており、是非自分でもやってみたい!
そこで私が選んだテーマはズバリ類似の図案です。
ひとめで仲間だとわかるものから、やや苦しいものまで様々ではありますが、そこは何の後ろ盾も積み上げた名声もない一愛好家の気安さ。
インスピレーションに従ってどんどん集めていきましょう。
思った通り分布に偏りがあって面白いですよ。
それではどうぞ。
猫背タイプ
米子市尾高から二本木のあたりにかけて集中しており、
・ | 正面向きの立像 |
・ | 猫背 |
・ | 向かって右の男神が鉢を巻いている |
・ | ▶◀こんなかんじの袖下が長い衣装 |
以上のような点が共通しています。
烏帽子タイプ
きっかけは忘れもしない、西尾原荒神社のユルい双体道祖神でした。
もし本当にユルくて自由な気持ちで掘り進めたなら、アクセサリとして神楽鈴は選ばない。
そんな着想から
モデルがあるのではないか?
と、手持ちの写真をすべて見比べてみたところ出てくるわ出てくるわ…
そしてそれどころか、類型の中には鳥取県内で確認されている最古の双体道祖神である尾高上市の依り代が含まれているという由緒の正しさ。
まことに恐るべし、ユルい双体道祖神!
因みに重要な手がかりであった三角の装飾がいったい何なのか?
修験道の装束である兜巾であるとか、非常食のはんぺんであるとかいろいろと真剣に悩みましたが、無難に烏帽子であろうという事にしました。
・ | 向かって右の男神、頭に三角の装飾 |
・ | 正面向きの立像 |
・ | 男神が笏を所持 |
・ | 女神の髪型が切りっぱなしのボブ |
といったかんじの特徴が共通しています。
おだんごタイプ
これは参考資料でも触れてありますので、私の妄想や思い込みなんかではありません。
・ | 向かって左の女神、髪型がおだんご(双髻) |
・ | 男神が笏を所持 |
・ | 彫込みの枠が宝珠型 |
・ | ほぼ座像 |
以上のような特徴が共通しています。
猿田彦タイプ
取り敢えず数が多いのでまとめましたが、これは下記の特徴が共通しているだけであって、画風や女神のバリエーションが多く、親子関係というよりはテンプレートと言った方が適当かもしれません。
・ | 斜め向かい合わせの立像 |
・ | 向かって右の男神が鼻高の猿田彦命 |
・ | 猿田彦が佩刀して槍持ち |
特に女神が鈍器のような大型の幣を担いでいる図案が印象的だったりします。
杖タイプ
特徴の項目だけを見ると心もとないような気もしますが、絵を見れば一目瞭然。
下絵が出回っていたのではないかと思う程そっくりです。
・ | 斜め向かい合わせの立像 |
・ | 向かって右の男神が杖をついている |
そのうち東千太神社の依り代は現在破損していて、わずかにその面影をしのぶことが出来る程度。
淀江タイプ
淀江町淀江で特に多くみられ、近隣にも点在する。
・ | 正面向きの立像 |
・ | 貴人のような姿 |
ディテールが失われるとコーラ瓶のようなシルエットになるのも特徴です。
「淀江のサイノカミ」では彫刻方法に着目し、伯耆型Ⅰ、伯耆型Ⅱ、淀江型という分類を提唱していますが、それらとは全く関係ありません。
岡成タイプ
男女神共に胸元が大きく開いた図案です。
・ | 向かい合わせの立像 |
・ | 総髪 |
・ | 男神が杖持ち |
・ | おっぱいポロリ |
おっぱいポロリで有名な日本神話の女神といえば云う迄もなく天鈿女命ですね。
岡成神社の依り代が際立って美麗ですので、取り敢えず岡成タイプとしておきます。
墓下タイプ
男神が身分の高そうな見た目である事に対して、女神の見た目が…なんというか質素に見えるのが兎にも角にも印象的です。
シャーマンなんでしょうかね。
その他は、
・ | 斜め向かい合わせの立像 |
西原九区墓下の依り代が鮮明で、特徴がつかみやすいので便宜的に墓下タイプとします。
とても長くなってしまいすみませんでした。
ライフワークみたいなもんですので、調査が進むたびに記事更新しています。
またどうぞよろしく。