中国地方における小水力発電の歴史

鳥取県
日野川水系の小水力発電所

所長 ようこそいらっしゃいませ。
こちらは、日野川水系の小水力発電所をご紹介する米子力研究所のメインコンテンツです。
以下もくじにあるとおり8ヶ所+αのプラントを順次ご紹介していく訳ですが…
その前に少しだけ、小水力発電とは何ぞや?といった感じの導入を準備しましたのでお付き合いください。

そもそも小水力発電とは、
最大出力が1,000kW未満の水力発電
の事を指します。
小水力発電には、
電力史にける3つのビッグウェーブ
中国地方に多くみられる
イームル工業と織田史郎

といったトピックがあり、これらについて
長崎大学総合環境研究 / 第12巻 / 第1号 / pp.97-119
中国地方の小水力の歴史(2009-12)

に詳しくまとめてあります。
中国地方電気事業史(1974)を超圧縮して、農協系水力の話題をアドオンした感じの内容でして、更にそれをざっくりまとめようとする事で…
いいですか、落ち着いて聞いてください。

小水力発電の歴史を学ぶという今回の目的をいきなり達成できてしまうのです。
それではどうぞ。

もくじ

日野川水系の水力発電所
黒坂発電所
日野川第一発電所
新川平発電所
俣野川発電所
新幡郷発電所
日野川水系の水力発電所
小水力発電の歴史 ⇦ いまここ
年表          
小水力に押し寄せた3つの波
 1.黎明期      
 2.天才の出現    
 3.環境意識の高まり 
畑発電所
根雨発電所
米沢発電所
溝口発電所
旭発電所
川平発電所
新石見小水力発電所
新日野上小水力発電所
若松川発電所
遺構

年表

それではまず年表から。
参考にさせていただいた「中国地方の小水力の歴史」から、各年代のトピックを厳選してまとめてみました。
もうこれ以上は削れません。
★のマークは、該当年及び該当期間における小水力発電のイケイケ度を独断と偏見にてスコア化したものです。

黎明期

明治20年(1887)
東京電燈が全国で初めて電力供給を開始
明治23年(1890)
中国地方で初の電力会社、岡山電燈が開業
明治25年(1892)
京都市営の蹴上発電所が全国で初めて水力発電事業を開始
はやくも大規模化の傾向が見え始める
明治32年(1899)
広島水力電気の広発電所が中国地方で初めて水力発電を開始
明治40年(1907)★★
東京電燈の駒橋水力発電所が完成したことにより、水力発電の大規模化が決定的となる
水力発電による電力供給の技術もほぼ完成する
明治44年(1911)★★
一般供給で火主水従が逆転〔水力51.9% > 火力48.1%〕となる

2度の大戦とその後

大正02年(1914)★★
水主火従の傾向が明確化〔水力62.2% > 火力37.8%〕
電気事業者の乱立 ⇨ 中国5県で45社
大正07年(1918)★★
第一次世界大戦の終結
大正10年(1921)
戦後恐慌により一般産業が不振、電力は過剰供給状態

買収、合併を繰り返し広島電気が誕生
事業者の乱立状態が再編される中で、小規模発電所が次々と廃止される
昭和14年(1939)
日本発送電設立 ⇨ 電力事業が国家管理体制へ移行

水力発電は更に大規模化が進む
この頃1,000kW未満の水力を小水力とする概念が生まれる
昭和20年(1945)
太平洋戦争の終結
昭和21年(1946)
戦後の激しい電力不足が始まる
灯火管制の解除による需要の増大
戦災による電力施設へのダメージと、戦中の管理不足、物資、石炭の不足などが原因

農協系小水力の隆盛と衰退

昭和23年(1948)
中国地方電力増強5ヵ年計画が策定される
昭和25年(1950)★★
対日援助見返り資金による融資の決議から、中国地方で小水力発電所の建設が盛んにおこなわれるようになった
昭和27年(1952)★★★★★
農山漁村電気導入促進法の制定
農協を中心として小水力発電の建設が飛躍的に増大した
昭和30年(1955)★★★
日本の高度経済成長により人件費が増大
出力に限界のある小水力は経営が悪化
昭和38年(1963)★★
豊富で低廉な石油の流入により大型新鋭火力発電が主流となり火主水従に逆転する
特に中国電力管内では昭和36年の事であった
昭和41年(1966)
中国電力は二代目取締役櫻内乾雄の構想による経営合理化の結果、平均 3.91%の値下げを含む料金改正を行う

農協経営による小水力発電の売電価格は戦後並みに据え置かれ困窮、赤字体質となる

オイルショックと再生可能エネルギー

昭和48年(1973)★★
第一次石油ショックによる原油価格の高騰
水力発電の価値が見直され小水力の売電価格も一部手直しが入る
昭和55年(1980)★★
中小水力発電開発費補助金などの助成策が整備され、中小水力発電が活性化
平成14年(2002)★★★
RPS法施行
電力事業者に対して新エネルギーの利用が義務付けられる
1,000kW未満のダムを伴わない小水力発電が新エネルギーと認定された
平成19年(2007)★★★
RPS法改定
それに加え、ダム式でも利水放流発電と維持流量発電までと対象範囲を拡大

小水力に押し寄せた3つの波

これでもかなり駆け足でしたが、凡その流れは以上です。
何やらいまいちピンと来ないような自覚はありますので、小水力発電が流行した3つの理由について、中でも小水力の巨人とまで評されるある人物について、もう少し文章で説明させてください。

1.黎明期

自由経済の宿命として大型化、高効率化する電力施設の通過点、いちバリエーションとして小型の水力発電所がありました。
これらは電力事業者が再編していく中で自然に淘汰されます。

2.天才の出現による先見的な農村開発

昭和27年の大ムーブメントについて、⇧の年表ではあたかも農山漁村電気導入促進法が制定されたからであるかのように見えますが本質はそうではありません。
中国配電の元取締役にしてイームル工業の創立者織田史郎
彼の存在が無ければ、農協系の小水力が普及する事はいくら法に後押しされようとも有り得なかった筈です。
ここ大事なので引用します。
田口トモロヲさんの声をイメージして読んでみて下さいw


.。oOズンドドンドドン…かっぜっのなかーのすーばる~♪
はいどうぞ!

織田史郎は、当時の日本の状況を考慮して、小水力発電が国益となり、とくに日本の食糧を支える農村のためになると考えた。
織田はその著の中で、次のように述べている。
戦争を伴う国土の拡張や新資源の獲得は不可能であり、限られたる国土の中で限られたる資源を最高度に活用して国の経済力を高め、生活を向上させていくしかない。
わが国土は昔から資源に乏しいが、水力資源だけは地理的環境に恵まれている。
また、農村は8,300万を超える日本人の食料自給問題について重大なる責務を負わされている上に、農村自体の経済が極度の行き詰まりに当面していて費用に苦渋を甞めつつある。
このままで推移すれば農村は自滅する可能性がある

(織田1952 p1-3)

そこで、織田は小水力発電により、農村地区の電力問題解消と、農産物以外での収入により経営を安定させようと考えた。
織田は、小水力発電のメリットを次のように述べている。

まず、開発可能地点が多い。
織田は、5万分の1の地図を使い、西日本一帯には地点数1992は開発可能地点があり、発電力総計約114,640kWと予想している。

(織田 1952 p7)

…中略
このような限定を加えて織田が調査をおこなったのも、小水力の特性をよく理解していたからだ。
当時の大水力の特性と比較しつつ、

小水力の使途は大水力のように大都市や工業地帯の大需要を対象とするものではなくて、農村の小需要を地元に於いて供給しようとするものであるからその使用効率が非常に高く、農村の需用電力を大水力に依存している従来の非能率的なやり方と比較にならない利益がある

(織田 1952 p7)
と、そのメリットを十分に理解していた。
中国地方の小水力の歴史(2010 p108)

所長 一流のエンジニアでありかつ経営者であった織田史郎は、それに留まらず経世済民の思想を抱く国士でもあった…。
超絶カッコイイですよね!
もともと発電所を建設することによって利益を得ようという考えからの出発ではなく、貧しい農民を救済したいという考えが先にあったんですな。
小水力発電所が中国地方に多い理由も、ズバリ織田史郎が広島の人だったからに他なりません。

3.オイルショックと再生可能エネルギー

直近にして3つめの波は環境意識の高まりです。
湯水のように湧いてくる石油が無くなるかもしれない。
それどころか地球が人間の居住できない環境になるかもしれない。
いろいろなきっかけはあるのでしょうが、そう考える人の割合がじわりと増えた原因としてオイルショックがそのひとつであった事は確実でしょう。
自由経済と世論がなかなかついてこないだけで、実は随分前からやっているんですね、環境対策。
ここまでのところでまとめてきた論文、「中国地方の小水力の歴史(2009)」発表後にも主に以下のような動きがあります。

再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法
平成24年(2012)★★★★
再エネ特措法の施行
令和04年(2022)★★★★
FIP制度の施行

小水力発電の事業としては、参入に伴うリスクが史上最も低減しているのではないでしょうか。
太陽光発電パネルの廃棄問題に対して、資金の外部積み立てを義務付けるなどシメるところはシメ、電気料金の値上げに連動して固定買取金額にプレミアを付けるなど、試行錯誤しながらもあるべき姿へ着実に向かっている印象を受けます。
が、これだけ法の後押しが加速していながらも尚、いまいちブレイクしない理由のひとつは…
複雑すぎてワケがわからん💢
の一言に尽きます。
具体的にいうと…

設計施工に伴う一般的な諸手続き+…
国交省 河川の水を利用するので、河川法に基づき水利権の申請
経産省 発電による電気事業工事をおこなうので、電気事業法に基づき報告
農水省 農山漁村電気導入促進法が適用される場合、補助金の申請
経産省 中小水力発電開発費補助金の申請
電力会社 売電に関しての協議

こうなります。
見ただけでイライラしてきますねw
資源エネルギー庁が、こういう諸手続きをオールインワンで解決する窓口として機能するならば、ちょっと小金のある経済的自立勢などの取り込みが期待できるんじゃないですかね。
ちなみに、主にRPS法が施行されて以降の近年、水力発電所の再開発や設備更新がどのような感じで行われているかについては、土木学会による
水力発電所土木設備の再開発更新事例に関する調査報告書 (2018.7)
に詳しいのでリンクを張っておきます。
そんなこんなで、うちの感想も交えつつ小水力発電の沿革と現状については以上となります。
それではたいへん前置きが長くなりましたが、ここからが本題。

畑発電所から始まる、日野川流域の小水力発電所の数々を、次回より順次ご紹介します。

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ぽんきちくん

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