鳥取県西部の習俗と石造物
鳥取県西部では、ときに異様な石仏をみかけることがあります。
田舎を歩いていて、道端の草むらにこんな石仏があったらビックリするんじゃないでしょうか。
少なくとも私はビックリしました。
とにかくまず見ていただきましょう。
倍率ドンッ!
三面六臂に牛馬の宝冠。
そして何よりその姿がおもしろい!
パッと思いつくものとして牛頭天王や馬頭観音が近いのですが、いまいちしっくり来ない。
発見当初はいくら考えてもわかりませんでしたので、やむを得ずそのまま塩漬けにするほかありませんでした。
しかしその後、別件調査で歩き回っていたところ…
出てくるわ出てくるわ!
近隣で見ることのできる凡そのバリエーションが出たのではないかと思いましたので、こうして筆を執った次第です。
結論から言ってしまうとこれら異形の石仏群は、
馬頭観音
牛頭観音
牛荒神
以上3つのうちのどれかであり、広義で牛馬供養塔とする他ないと考えるに至りました。
立地としては、単体で、もしくは六地蔵や三界萬霊塔などと一緒に集落の外れに置かれる事が多く、日南町に多くみられます。
また荒神が依り代のケースもありますので、道祖神的な役割も担ってい
なんでもかんでも道祖神にするのやめてもらえませんか?
役畜の供養はしたい。
でも死のケガレは村のソトに置きたい。
そんな感じの距離感ってことでいいじゃないですか。
…ぐぬぬ。
ちなみに間違いなく関連性が高いと思われる近隣の牛馬市についてですが、
大山牛馬市
江戸中期~昭和12年
村尾牛馬市(日南町)
嘉永7年~昭和38年
生山家畜市場(日南町)
昭和38年~昭和57年
このような感じで開催されていました。
当然他にもあったでしょうが、日南町で関連供養塔が有意に多く見つかる原因はこれではないかと考えています。
また、大雑把に牛馬供養塔と括った3種の石造物について、以下1.考察のところで説明します。
それではどうぞ。
もくじ
1.考察「異形の石仏群」
一般的に馬頭観音といえばこんな感じ。
三面六臂に忿怒の相、怒髪、馬の宝冠、馬口印などが特徴です。
しかし、日南町で次から次へと見つかる関連石仏はこんな感じ。
思っとったんと違う。
まぁ観音といえば観音ですし、頭に馬を乗せてもいますので馬頭観音とでもいう他ありません。
なんだろう、この
ケーキの上に栗が乗っていればそれはモンブランである
感は。
逆にクセになってきます。
牛馬の安全、繁栄、そして供養を願いたい。
でも馬頭観音って顔怖くない?
そう感じた人たちが、いかにも供養してくれそうな慈愛に満ちた姿に寄せて行った結果、
柔和相の馬頭観音
という異形の石仏が爆誕したのでしょう。
ここまでならまだ分る。
ところが、
「でも去年死んだうちのハナ子はウシだべなぁ、馬頭観音さまじゃちょっと心もどねぇ…。」
こういったニーズも少なからずあった、というよりかなり多かった筈です。
そこで、
「そこらへんに馬を頭に乗せとーやさしげな仏さん(勘違い)がようけあるがな。ほげなら馬のところを牛に変えるだけでいい感じになるだないか。」
などといったアレンジが加えられ、
牛頭観音
という、全国的に無いわけではないがこれまたよくわからない石仏が爆誕。
最後にもうひとつ。
およそ観音らしからぬ外見で、かつ頭に牛が乗っているもの。
これが難しかった。
そう、はっきり牛荒神と文字の彫られた石仏を見つけるまでは。
そうか牛荒神か!
地荒神的な荒神のいち側面です。
思えば牛荒神という概念は、ここら辺でもずっと昔からあったのでしょう。
牛に対してピンポイントで供養したい、というニーズをこれほど満たす信仰対象はありませんし、文字碑であれば無いわけでもないからです。
ところで私は浅学にして、荒神、なかでも地荒神の姿をかたどった依り代というものを見た事がありません。
しかし文字だけの石碑ではちょっと寂しい。
そこへある人が言ったとします。
「わしゃ知っとーじぇ。荒神さん言うたら三面六臂の憤怒相だがな。」
それ三宝荒神だし。
などとツッコむ人が周りにいなかった場合、みごと世にも珍しい牛荒神(像)なるものが生み出され、その後別系統で発生していた牛頭観音とごちゃ混ぜになった結果、めでたく現在わけのわからない状況になっている。
だいたいこんなところが真相(ゴンッ)
いいかげんにしてください。
黙って聞いてれば適当なことばっかり。
ポイッ⌒🔨
ちなみに観音っぽさを感じないご神体であっても、余程の根拠がない限り推定牛頭観音としてます。
でも曖昧な石造物がたくさんあるのは事実ですので、よかったらいっしょに推理してみてね!
2.分類
実物を見ていく前に、ざっくりとした分類について説明をさせてください。
┃ ┃
┃ ┣〔馬頭観音〕
┃ ┃
┃ ┣〔牛頭観音〕
┃ ┃
┃ ┣〔牛荒神〕
┃ ┃
┃ ┗〔その他〕━〔対象外〕
┃
┗(無)━〔頭に牛馬〕┳(有)━〔観音っぽさ〕┳(有)━〔ツノ〕┳(有)━〔牛頭観音〕 .
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┗(無)━〔馬頭観音〕
┃ ┃
┃ ┗(無)━〔牛荒神〕
┃
┗(無)━〔対象外〕
ものすごい独断と偏見による分類ですので、石造物を長くやっておられる方から見るとおかしな点があるかもしれません。
その際は𝕏(エックス)のDMや@などでコッソリ教えていただけますと助かります。
あと解釈の微妙な部分について以下補足します。
観音っぽさ
蓮台や光背などを目安にしました。
あと珍しいところでは羽衣っていうのもありました。
ツノ
牛頭観音と馬頭観音はそれらの扱いからみて同義だと考えられます。
施主もしくは願主の家で牛をやっていたのか、それとも馬をやっていたのかだけの違いであって、たとえ馬口印を結んでいようがいまいが、宝冠が牛であれば便宜的に牛頭観音であろうとしました。
対象外
地蔵や大師さん、五輪塔などそこらへんにある殆どの石造物がここに落ちると思います。
3.ギャラリー
ここからがようやくメインコンテンツです。
場所ごとではなく分類別でご紹介します。
気になる石仏があったらクリック、タップで詳細ページへ飛ぶ仕組みになっています。
ほんとうに様々なバリエーションがあり、広義で牛馬供養塔とでも括らざるを得なかった事情であるとか、パターンの分化を説明するのに前述のような考察を無理矢理にでも行う必要があったことなど、同情も兼ねてお分かりいただけたら幸いです。
それではどうぞ。